サグラダ・ファミリアと日本の彫刻家


 バルセロナにガウディの建築を見に行きました。まず、サグラダ・ファミリアから。この教会は未完成です。2026年に完成する予定とのことです。季節は夏、お昼頃の時間を予約しており、戸外に居ると直射日光が痛いくらいです。日本のように湿度がないので過ごし易いです。

 サグラダ・ファミリアには3つのファサードがあります。このうち、「栄光のファサード」は現在完成していません。「生誕のファサード」が一般観光客用の入り口となっていて、まずここから見ました。イエスの生誕をテーマとした彫刻で飾られています。3つのファサードのうち、ガウディ自らが彫刻したのは生誕のファサードだけです。入り口には扉が3つあり、それぞれツタや葦、野バラの彫刻が施されています。ツタのある扉には、トンボやカブトムシの彫刻も彫られていました。これらは日本人である外尾悦郎氏の作品です。日本人らしく、小さなところにまでこだわりが見えます。外尾氏は、京都市立芸術大学の彫刻科を出た後、しばらく美術の教師をしていたようです。ある時、どうしても石が彫りたくてたまらなくなり、ヨーロッパに渡り、バルセロナサグラダ・ファミリアに出会ったようです。その頃のサグラダ・ファミリアは今のように有名ではありませんでした。その上、無理に頼み込んで石を彫らせてもらったとのことです。今では、外尾氏は主任彫刻家となっています。サグラダ・ファミリアも有名になり、観光収入も大幅に増えました。ちなみに私も大学を出てから数年間は何をして良いのか分からず、あちこちの塾で数学や英語を教える生活をしていましたから、なんとなくシンパシーを感じます。

 聖堂内に入ると、ステンドグラスから射し込む光が、美しい。シャルトルの聖堂は、青が基調ですが、ここは、赤が素晴らしい。午後になり、西日が差すと、赤いステンドグラスから赤い光が射し込む。その光が荘厳でした。教会内部には座れるところが沢山あるので、しばらく座って過ごしました。内部の基本的な構造は、ゴシックの教会と同じです。もしくは、バルセロナに固有のゴシックとでも言いましょうか。内陣は、森の中にいるようです。自然からインスピレーションを受けて建築したのだと言われています。

 反対側にまわり、受難のファサードも見ました。こちらは、ガウディの製作ではなく、弟子のジュゼップ・マリア・スビラックスの制作です。そのグロテスクな彫刻は現代風でありますが、ガウディの彫刻から影響を受けているのは間違いありません。顔のないキリストの磔刑像やユダの接吻など、イエスの受難をテーマとしています。

 生誕のファサードと受難のファサードとにはそれぞれ塔があり、どちらか1つに登ることができます。私は、バッハのマタイ受難曲が好きなので、受難のファサードに登りました。まず、エレベーターで地上約60Mくらいのところまで登り、そこから階段で少し登ります。頂上付近の果物のような彫刻を見たり、バルセロナ新市街の景色を見たりしました。見晴らしのいい展望台はなく、塔自体の壁によりかなり限られた景色でした。ここはかなり高いですので、高所恐怖症の方は要注意です。村上春樹澁澤龍彦サグラダ・ファミリアの塔に登った文章を読んだことがありますが、二人とも高所恐怖症らしく、怖かった、高くて気持ち悪い、と言うことを述べておられます。私は、高所恐怖症ではないですので、普通に見学をしました。ヨーロッパでは、高い塔に登るのはよくあることです。コペンハーゲンの救世主教会の塔の方が怖かったです。救世主教会の塔の上の方は、手すりがなくなるのです。サグラダファミリアは一番上まで登ったら、あとは階段をひたすら1階まで降ります。途中に景色が見えるビューポイントがいくつかあります。

 サグラダファミリアの地下にはガウディの墓があると聞いていましたが、地下礼拝堂には入れませんでした。これは残念です。しかし、聖堂の地下にはサグラダ・ファミリアの資料を展示する資料室もあり、そちらには入ることができました。東京国立近代美術館で開催されていた、「ガウディとサグラダ・ファミリア展」でも見たような、ガウディの建築の資料が展示されていました。カテナリー曲線を利用する実験も行うなど、デザインだけでなく技術的な面でも新しいことを取り入れていました。

 冒頭でも言ったように、サグラダファミリアは未完成です。作品が未完成のまま作者が死ぬということは、人の死が予測できないものである限り仕方のないことではあります。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」も未完成ですが、一つの傑作として後代に残っています。中世のゴシックの教会も2世紀近い年月をかけて建てられました。サグラダファミリアは私の生きている間に完成を見ることができると思いますが、未完成のままでも傑作として見ることのできる、唯一無二のオリジナルの建築作品でした。

 

サグラダ・ファミリアのステンドグラス