ゾラ 居酒屋

 主人公がアル中となって堕落していく物語である。お酒の恐ろしさ、パリ下層階級の生活、どん底とはどういうものかを知ることができる。舞台はパリ、18区のモンマルトルのあたりである。主人公のジェルヴェーズは南仏出身の洗濯女で、内縁の夫・ランチエと一緒にパリに出てきている。物語の初めには22歳。ランチエとの間に2人の子供がいる。ランチエは女好きの浪費家で、物語前半で別の女を作って出ていってしまう。

 ジェルヴェーズはランチエが出ていった原因となった女の姉妹、ヴィルジニーと洗濯場で喧嘩をする。その場面が前半のハイライトとなっている。

 その後、一人身になったジェルヴェーズは、ブリキ屋のクーポーから言い寄られ、結婚をすることになる。ジェルヴェーズは跛ではあるが、美人である。結婚式の日、区役所で式を挙げ、教会へ行き、居酒屋で集まった後、この結婚の先行きを暗示するかのような、土砂降りの雨と雷雨に遭う。そして雨の降る中、ルーブル美術館に行き、居酒屋で宴会をする。結婚により200フランの借金ができたが、それから4年間はよく働き、新居にも引越しをする。その新居の隣には、グージェという名の母と息子が住んでいた。グージェの息子は、のちにジェルヴェーズに恋をするようになる。ジェルヴェーズが自分の店を持つ時に、グージェは母親が見つけてきた相手との結婚を断り、結婚資金をジェルヴェーズに貸してしまう。

 ジェルヴェーズには女の子が生まれ、ナナと名付けられる。ナナは続編で主人公として描かれる。この頃までがジェルヴェーズの幸福の絶頂期である。しかし、幸福は長くは続かない。ここから一家の転落が始まる。

 クーポーが仕事中、ナナに呼ばれた拍子に屋根から転落して、しばらく働けなくなってしまう。ジェルヴェーズはクーポーの治療費で、蓄えを使い果たしてしまう。クーポーは、療養中に仕事への熱をなくしてしまっていた。回復期に、酒場に通うようになってしまっていた。

 同時期、自分の店を持ちたいと思っていたジェルヴェーズは、グージェからお金を借りて、以前から目をつけていた店を借り、一家は店の上階に引っ越す。それから3年ほどは、真面目に働き、グージェへの借金も半分ほどは返済する。しかし、だんだんやり繰りがつかず、借金の返済も出来なくなっていく。また、この頃、昔の男、ランチエが再びジェルヴェーズの前に姿を現す。

 ランチエはクーポーと仲良くなり、再びジェルヴェーズの生活に入り込んでくる。最初の頃は1週間のうち3、4度クーポー夫婦と一緒に晩飯を食べ、そのうちに毎晩食事を一緒にするようになり、そうなると、ジェルヴェーズの家から離れなくなった。ランチエは口先だけの男である。最初こそお金を払ってはいたが、やがて、うまいことを言って、部屋代も食事代も払わずに居るようになった。こうしたことが重なって、ジェルヴェーズの借金は膨れ、店の雇い人にも給料を払えなくなる。ランチエはジェルヴェーズと再び関係を持とうとする。この頃まではまだジェルヴェーズも操を守っていたが、ある日、酔ったクーポーが自宅で胃袋のものを戻し、豚のように寝ている夜に、汚物で寝る場所のなくなったジェルヴェーズはランチエの部屋に誘われ、そこでランチエに体を許してしまう。その様子を見てしまう娘のナナ。ナナは成長して淫売のようになる。

 ジェルヴェーズは仕事も疎かになっていき、ついに店を手放す。店を引き継いだのはヴィルジニーである。ランチエがうまいことを言って、ヴィルジニーに店を買わせたのである。ヴィルジニーは食品雑貨の店を始める。ランチエはまたしてもうまいことを言ってそのままその場所に住み続け、ヴィルジニーとも肉体関係を持つ。彼は店の甘い菓子にも手をつけている。

 クーポーはちっとも働かず、一家は落ちるところまで落ちる。何も食べずに日を過ごすこともあり、一家は毎日のように口論し、殴り合いの喧嘩をする。そんな状況で、ナナは何度か家出を繰り返した末、そのまま家を出て行ってしまう。クーポーはアルコール中毒で何度か精神病院に入っては戻ることを繰り返した後、気狂いになって死ぬ。金も食べるものもなくなったジェルヴェーズは、通りで自分の体を売って金を作るため、客引きをするまでに落ちぶれる。ジェルヴェーズは客引きでグージェと再会し、食べ物をもらって別れる。ジェルヴェーズもクーポーと同じく、アルコール中毒になってしまっていた。貧乏のどん底で、ジェルヴェーズは死んでいく。

 読むと、アルコールには本当に気をつけなければいけないな、と思ってしまう。働かずに、昼間から酒を飲むようになってしまったら、要注意だろう。実直に働くことが一番だな、とも思ってしまう。

 

 著者のエミール・ゾラはフランスの作家。生まれはパリだが、小さい頃に南仏に越した。10代後半でパリに戻り、書店に勤務したのち、作家となる。「居酒屋」は「ルーゴン・マッカール叢書」と言われる一連の連作の中の第7作。第2帝政下のある一家の歴史についての作品である。バルザックのように登場人物が他の作品に再登場する。この「居酒屋」までは作品は全く売れなかったが、「居酒屋」は大きな反響を得た。読んでわかるように、あまりにも露悪的に下層階級の不幸が描かれているのである。それでも怖いもの見たさなのか、本は多く売れた。

 日本の作家、永井荷風は若い頃にゾラに耽溺した。ゾラ作品の翻訳も行なっている。三島由紀夫も影響を受けている。また、画家のセザンヌはゾラとは親友であった。そのため、永井荷風三島由紀夫セザンヌ作品が好きな人に一読をすすめる。

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モンマルトル、パリ